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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)3923号 判決

原告 樋口堅

右訴訟代理人弁護士 岡時寿

被告 永井明

右訴訟代理人弁護士 宮永堯史

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は、被告永井明に対する関係において、

(一)  被告永井明は、別紙第二目録記載建物から退去して、同第一目録記載土地の明渡しをせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求めた。

被告永井明は、主文一、二項と同旨の判決を求めた。

二、原告の被告永井明に対する請求原因

(一)  原告は、別紙第一目録記載の土地を所有している。

(二)  別紙第二目録記載建物は、右土地に存在するところ、右は権原のないものであり、被告永井明は、同建物に居住し、不法に同土地を占有している。

(三)  よって、同建物からの退去と同土地の明渡しとを求める。

三、被告永井明の右請求原因に対する答弁

請求原因(一)の事実は知らない。

同(二)の事実は否認する。

四、原告による任意的当事者変更の申立

(一)  原告は、いわゆる任意的当事者変更として、次のとおり、新当事者(被告)の主観的追加的併合を求め、かつ、同新被告に対する関係において、次の判決を求める旨申し立てた。

(1)  新被告

茨木市竹橋町一五番三七号

新被告 茨木キリスト福音教会

右代表者代表役員 永井明

(2)  求める裁判

(イ) 新被告茨木キリスト福音教会は、原告に対し、別紙第二目録記載の建物を収去して、同第一目録記載の土地を明渡し、かつ、昭和四五年五月一五日から右明渡し済に至るまで一か月一万五〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

(ロ) 訴訟費用は新被告の負担とする。

(ハ) 仮執行の宣言。

(3)  新請求の原因

(イ) 原告は、別紙第一目録記載の土地を所有する。

(ロ) 新被告茨木キリスト福音教会は、別紙第二目録記載の建物を所有し、右土地を不法に占有してる。

(ハ) よって、右建物収去、土地明渡し、および不法占有開始の翌日である昭和四五年五月一五日から右明渡し済に至るまで賃料相当の一か月一万五〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

(二)  申立の理由

(1)  別紙第二目録記載の建物は、被告永井明が所有していたところ、同被告は、昭和四五年五月一四日、同被告が代表役員をしている新被告茨木キリスト福音教会に対し右建物を寄付し、同月二三日、その旨の登記がなされていることが、被告永井明の答弁書により判明した。

(2)  右の事実関係のもとにおいては、訴訟物は同一内容であり、訴訟手続も実質審理に入る前段階であって手続の安定を害することもなく、訴訟経済にも合し、更に被告永井明と同被告が代表役員である新被告茨木キリスト福音教会とは実質上同一であると目すべきであるから、任意的当事者変更の一態様として、新被告の主観的追加的併合は、許されるべきである。

(ハ) この場合、原告は、任意的当事者変更として申し立てているものであるから、別訴を提起しているものではないし、経済的に重複するので別に印紙の貼用を要しない。

理由

一、原告は、いわゆる当事者変更の一態様として、被告永井明につき、訴外茨木キリスト福音教会(代表者被告)を新当事者として主観的追加的に併合する旨申し立てた。(ただし、これは別訴の申立ではないし、したがって印紙の追貼を要しない旨申し立てた。)

しかし、当事者は、訴訟法律関係の主体であり、訴訟が提起され、訴訟が裁判所に係属した段階において、誰が当事者であるか確定されるべきものである。

そして訴訟法律関係は、確定当事者のために、または確定当事者に対して存在し、裁判所は、これら当事者の関係において所定の訴訟手続を進めるものであるから、民事訴訟法七二条、七四条、二〇八条等の規定により訴訟承継の許される場合を除き、その後任意に原告または被告を交替することは、訴訟係属に伴う手続の安定を害することとなり、許されないところといわなければならない。

本件における原告の申立は、被告永井明個人を被告としていたものを、任意的当事者変更として、追加的に新たに同被告を代表者とする別個の法人格を有する茨木キリスト福音教会を併合するとするものであって、右の任意に当事者の変更を申し立てる場合に該当するところであるから、訴訟法上許されないものといわなければならない。

原告は、任意的当事者変更の許さるべきことを種種主張するが、右の許さるべきでない理由は前記のとおりであるから、採用するに由ない。

二、原告の被告永井明に対する本案について

原告主張の請求原因事実は、被告においてこれを争うところ、原告は何らの立証をしないから、これを認めるに由ない。

三、よって、原告本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用は敗訴した原告に負担させることとし、主文のとりは判決する。

(裁判官 小湊亥之助)

〈以下省略〉

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